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ドイツ視察ツアー報告レポート

ドイツ最新のエネルギー高効率建築を視察するドイツ視察ツアーを実施しました



建築物の消費エネルギーを高効率化する技術は、今日の重要なテーマである。先進国は、こぞって技術開発を推進し、しのぎを削っている。中でも、ドイツは技術輸出を国家戦略として捕らえ、常に世界の先端を行っている。

セルフエナジーハウス研究会では、日独の経済交流の橋渡しを行っている「ECOS」社の要請で、ドイツの最新のエネルギー高効率建築を視察するプログラムに参加する訪独視察団を結成。

世界最先端と言われる「エネルギー高効率利用住宅=パッシブハウス」を研究・開発した"パッシブハウス研究所"や、建築物の物理学的研究を行っている"フラウンホーファー建築物理研究所"を訪問して、最新の動向の研修を受けることにした。

そして、エネルギーの高効率化を目指した様々なスタイルの実例が並ぶケルンの住宅展示場、またドイツでは一般的に利用されている、太陽熱集熱機器利用の実態や最新技術、さらにコンペで受賞したシュツットガルト大学のソーラーハウスなどを視察した。また高効率な街づくりに取り組むハイデルベルク市の都市計画の勉強と見学などが主な視察内容となる。

単なる通り一遍の視察ではなく、より深い理解を得ていただきたいとのドイツ政府の要請により、本ツアーは(社)セルフエナジーハウス研究会会員・関係者のみで16名限定として行われた。

エネルギー高効率建築:最先端を行く、ドイツの取り組み



今回は、ドイツ政府の経済環境省が企画したエネルギー高効率建築に関するプログラムで、このプログラムの運営者「ECOS」の要請で当研究会が参加者を集めた。総勢16人の参加者の面々は、建築家、住宅会社社長、現場管理者、サプライヤー、メーカー、施工実務者、不動産関係、大学院生と多岐に渡った。

ドイツといえば、住宅建築に携わる人々にとってすぐにパッシブハウスが浮かぶ。世界最先端をいくといわれる省エネ住宅のパッシブハウスは、すでに日本でも建築されてはいるが、北海道のような北方圏では有効だが、圧倒的に住宅件数の多い関東以西の地域では、高温多湿という気候条件がドイツの気候とは大きく違うのでパッシブハウスはなじまないという論議がなされている。

ドイツが、建物の省エネ化に取り組み出したのは1970年代の第2次オイルショック以降からで、当初は単純に建物の断熱性を上げれば良いのではと無作為に断熱した結果、結露によるカビの発生などで健康被害が生じ、社会問題にまで発展したという。

エネルギーロスをなくしながら、室内環境を快適にするには、どのような技術が必要なのか。長期にわたる研究・努力の積み重ねで、世界トップレベルといわれる省エネ住宅パッシブハウスは開発されたのである。しかし、ドイツでもここ数年温暖化の影響で、夏季の湿度の問題も無視できない状況であることや、パッシブハウス技術をEUをはじめとする世界に普及させるための、さらなる研究が進められている。

国民の生活が豊かになり、経済が豊かになり、経済が発展するにしたがってエネルギー消費も増加する。そのエネルギーをいかに効率良く利用するか。特に、人々の生活・活動の拠点である建築物でのエネルギー高効率利用は、新築の住宅や建築物だけではなく、既存の建物すべてに当てはまる最も大きなテーマといえる。

中でも人間の生活・活動の拠点となる建築物においてのエネルギー高効率利用は、世界のどの国においても重要なテーマである。

今回のプログラムでは、個々の住宅の省エネ化に関するパッシブハウス技術の進化から、地区単位、地域単位の建築物をいかにしてエネルギーを高効率利用する建築物にするかという取り組みに焦点が当てられている。国のエネルギー政策、これらを研究する機関の取り組み、新たな住宅地開発、米軍基地や貨物基地の再開発、次世代を担う学生たちの取り組みなど、環境先進国と言われるドイツの様々な取り組み、それらの成果を垣間見る事ができるように計画されていた。

今回のドイツ政府主催「エネルギー高効率建築訪独視察」における目的とテーマは?

セルフエナジーハウス研究会 代表 上野 勝
Writings & Photo : Masaru Ueno

前回の訪独時のテーマは次のようなものだった。

  • 1つはエネルギーを削減しても経済成長を成し遂げる事が本当に出来るのだろうか?
  • 1つは(社)セルフエナジーハウス研究会が推し進める家づくりに真に必要なものは何なのか?
    検証と確信を得たい。私たちが推し進める家づくりはエネルギーの自給自足とエネルギー使用量削減、そのために建物の躯体構造をエネルギーロスの少ないものにしていくことである。

今回のテーマと視察目的は以下の通りである。

  • 建築物の消費エネルギーを高効率化する技術を自分の目で確かめる
  • 世界最先端と言われる「エネルギー高効率利用住宅=パッシブハウス」を研究開発した「パッシブハウス研究所」の最近の情報を手に入れる。
  • 建築学の物理学的研究を行っている「フラウンフォーハー建築物理研究所」で最新の動向を学ぶ。
  • エネルギーの高効率化を目指した様々な実例を見ることができるケルンの住宅展示場を見学する。
  • 太陽熱集熱機器利用の実態と最新技術を見る。
  • 大学の建築コンペの受賞作品のソーラーハウスを視察する。
  • ドイツ最大の太陽熱による地域暖房施設の実際と都市計画をハイデルベルグ市の実例で学ぶ。

以上のような非常に中身の濃い内容での訪独で私のように物理学に弱い人間にとってはかなり頭がパンパンの状態で帰国することになりそうだ。

いよいよ10月6日、私達は視察団として再びドイツへ!

私たちは前回と同じく成田からフランクフルトへと向かった。時差が7時間あるが12時間後には私たちは再びドイツの地にいる。今回もきっと前回とは違う大きな何かを得ることを期待している自分と仲間達が、それぞれの思いでそこにはいた。

またまた前回と同じく12時間いろんな事を考えながらほとんど一睡もせずにフランクフルト国際空港に着いた。このあとは明日のドイツ連邦経済局によるセミナー参加のためケルンへバスで向かった。チェックインまでに少し時間があるため、荷物だけを預けて市内の散策に出ることになった。以下はその一コマである。

ドイツ連邦経済局によるセミナー

昨日フランクフルトに着きそれからケルンへ移動、睡眠不足による疲れもまだあまりとれない中朝早くからのセミナーのため早めに朝食を取った。いよいよこれからが本番である。8時過ぎに「ドイツにおける高効率建築 訪独視察団スタートアップセミナー」の会場についた。

まず、ECOSプロジェクトマネージャーのヨハンナ シリングさんより開会の挨拶と現在の、「ドイツにおける建築分野のエネルギー効率化に向けた政策と支援プログラムについて」、話があった。このあと、「ドイツにおける高効率エネルギー建築分野の最新技術とイノベーション」という内容で木材加工、樹脂加工産業協会のマーケティング部長のヤン・ロライト氏よりレクチャーを受けた。

引き続き、ドイツにおける高効率建築の取り組み例の紹介、ということで前回私たちが訪問したドイツ、ホーマテルム社の社長より「木の断熱材」が住宅の高効率化に大きな役割を果たす事の説明を、またトレコム・イルブルック社のシーリング材に必要な防水以外の役割などについて、そのあとはペレットストーブメーカーなどの説明へと進んだ。このあとは昼食を取りながらの交流会へと移った。

ドイツの高効率化住宅を直接見ることのできる、ケルンの住宅展示場へ移動


新建ハウジング記事

ドイツ国内にある住宅展示場の中でもケルンの展示場は規模としてはさほど大きくないが、なかなか興味深いモデルハウスが建ち並んでいる。

それぞれの会社が省エネルギー対策の施策を打ち出し、義務化されているエネルギー使用量提示を行っている。

最新の傾向は、窓の断熱性能が数段と向上したために、日射取得を考えて大きなガラス面を持つ明るい住宅に人気があるようだ。

究極の断熱基準を進めるドイツのパッシブハウス研究所を訪問した

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ドイツでは、1970年代のオイルショック以降、民生部門の省エネルギー政策として住宅の省エネルギー化を進めてきた。その過程で実験的に行われてきた住宅のゼロエネルギー化への挑戦が、今日の厳しい省エネルギー住宅の基準作りに繋がったと言われている。

ドイツでは2002年2月1日の「省エネルギー政令」発効以降、新築住宅はすべて低エネルギーハウスとすることが義務づけられ、現在のドイツの 「低エネルギーハウス基準」の中で、最も厳しい自主的な基準として「パッシブハウス」がある。パッシブハウスは、暖房に伴う年間エネルギー消費量(戸建住宅)が15(kWh/m2・年)以下の住宅と定義されている。

このパッシブハウスは、1996年にヴォルフガング・ファイスト博士が設立した、ダルムシュタットのパッシブソーラーハウス研究所が完成させたもので、様々な優遇処置が得られる「パッシブハウス」として法的な基準を満たしていることを審査する機関にもなっている。断熱性能において理想的な建物像を追求する「パッシブハウス」の動向は、将来の省エネルギー基準を牽引する羅針盤として注目される。今回の視察では、このパッシブハウス研究所を訪問し、プレゼンテーションとディスカッションを行った。テーマは、

  • パッシブハウス研究所の歴史と活動について
  • パッシブハウスの定義、分野、利点、手法などについて
  • ドイツにおける高効率エネルギー住宅の推進 について

その後、実際のパッシブハウスを見学することに。今回は特に小学校の建物を説明していただくことに。

シュトゥットガルト大学のソーラーハウス
=世界の大学が参加する"Solar Decathlon Europe"で銀賞を取得=

世界中の大学が、ソーラーハウスを建設して総合的な優劣を競う、"Solar Decathlon Europe"、2012年のコンペには、日本で始めて千葉大学も参加する。このソーラー・デカスロンで銀賞を取った、シュトゥットガルト大学の作品は実にユニークである。最新の素材と技術で作られた、コンパクトな家は、風と蒸発冷却と組み合わせた、エネルギータワーが特徴である。ウェブサイトには、様々な解説が載っているが、やはり百聞は一見にしかずで、目の当たりに見る事が最も効率的な理解方法と言える。

次世代を担う建築家達はどう研究しているか?

シュットルガルト大学の実験棟は、これが学生たちの仕事であるかと思うほど、感性度の高いもので、非常に興味深かった。毎年、世界各国の学生チームが環境配慮型の住宅を建てて、性能を競い合う国際大会「ソーラー・デカスロン」で、2010年に銀賞を取った住宅である。四角いシンプルなデザインの住宅には、壁面に2色の太陽光発電パネルを貼り、屋根には太陽熱集熱と太陽光発電を同時に行うハイブリッドパネルが設置されている。住宅の中央にあるエネルギータワーと呼ばれる場所には、気化熱を利用した冷房システムも備えている。完全なエネルギー自給自足を目指した木造住宅で、会場にて簡単に組み立てられるように、三つのユニットかが分かれて、運べるように計画されている。

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この「ソーラー・デカスロン」は10項目の審査対象があり、単なる建物の性能や機能以外に、工業化の可能性や市場性なども項目に入る。学生たちが計画から施工までをすべて手掛け、スポンサー企業は資金援助とパーツの供給を行う程度である。見学時に解説をしてくれたのは、このプロジェクトに参加していた学生で、卒業後解説者として大学に就職するという。このプロジェクトに参加して良かった事は、自分達が手がけた研究で仕事ができた事だと語っていた。

今年は、千葉大学が始めて日本として「ソーラー・デカスロン」に参加したが、結果は惨憺たるものだった。18校の参加中15位、時間切れで完成しなかった2校は言わばリタイヤ組である。細かい内容は、日経アーキテクチャー誌を見ていただければ分かるが、大手住宅メーカーや設備会社がサポートした作品はまるで大学生と中学生知識の差があった。次代を担う学生達の仕事をみていると、ドイツの裾野の広さを感じざるを得ない。

ドイツは、エネルギー高効率建築の技術や取り組みを、世界の建築関係者に紹介し、その思想や技術を輸出するという国家的な戦略が根底にある。残念ながら、今の日本では到底追いつかないのが現状だ。世界でも最先端の技術を持つといわれるドイツの取り組みを知ることは、われわれの今後の取り組みがいかに先進的であるかを、強烈に印象付けられるプログラムであった。

フラウンホーファー建築物理研究所

フラウンホーファー建築物理研究所は、ドイツ全土に56の研究所を持つ「フラウンホーファー協会」の研究機関の一つである。日本にも、フラウンホーファー日本代表部がある。

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フラウンホーファー建築物理研究所では、建築物理の分野における研究、開発、試験およびコンサルティングの業務を行っており、具体的な研究としては、建築物の騒音制御、防音対策、講堂における聴覚条件の最適化、エネルギーの有効利用、照明技術、室内気候の諸問題、防湿および劣化対策、歴史的建造物の保存などで、建設会社、機械および設備会社、建築家、設計事務所、公的および私的な建築研究所などとの連携により、環境に配慮した新しい建材や部材およびシステムを開発し、市場に送り出している。高性能な独自の測定装置を備えており、建築物理的に複雑な現象の測定や試験を受託していて、ドイツおよびヨーロッパ内の建材や工法の公的な認定機関の役目も担っている。「異なる気候区での建設」のテーマのもとに、当研究所は「日本における建設」にも取り組んでいる。

今回の視察では、このフラウンホーファー建築物理研究所を訪問し、プレゼンテーションとディスカッションを行った。テーマは、

  • 建物における効率的なエネルギー供給
  • 高効率エネルギー住宅のコンセプト(ゼロエネルギーハウスからエネルギープラスハウスへ)

ドイツ最大の太陽熱による地域暖房施設を見学

ドイツでは太陽光発電と同様に」太陽熱を利用した給湯・暖房システムが普及している。太陽の熱を集め、その熱で給湯と暖房を行うシステムでいわば太陽ボイラーである。各家庭用にも普及しているが今回の研修ツアーでは集合住宅に取り入れ集合住宅版ゼロエネルギーハウスを実現しているということでこの集合住宅を実際に見学することに。

ハイデルベルクで現在進められている「都市開発プロジェクト」に関する説明を受ける。その現場を見ることに。

建物だけでなく街の高効率化につながるプロジェクト

今回のプログラムで印象が深かったのは、冷戦時代に駐留していた米軍基地の再開発と、歴史的な街にある鉄道貨物基地の再開発の二つの再開発計画であった。二つの基地の再開発に共通する問題点は土壌汚染処理。

米軍基地では、問題あのある土壌を他に移動せずに、敷地の外側に積み上げ土手をつくり、そこに、太陽熱集熱パネルを設置した。かつての将校用住宅は賃貸住宅として改修し、屋根にはびっしりと太陽熱パネルが敷き詰められている。

この太陽光パネルは、屋根材にもなっている。屋根と土手で集めた太陽熱をすべて地下につくった48tの蓄熱層に貯め、開発地内の各戸に給湯している。さらに、地中熱やヒートポンプ、コジェネを利用して冬季の不足する熱エネルギーを補っている。

電気は隣接する工業地帯にある自然エネルギーを利用した発電施設から送られてくる。ドイツでは、電気が自由化されているので、周辺の民間発電所から調達する事が可能だ。その結果、完成すれば2000世帯が暮らすこの街では化石燃料を買う必要はなく、お金は地域で循環する。

歴史的な街としても有名な≪ハイデルベルグ≫の貨物基地の再開発では、解説者が「ここはトカゲの4つ星ホテルがあります」と話し出した。開発地の中に、絶滅危惧種のトカゲの生息地があり、自然保護団体の開発反対運動に配慮して、トカゲを1匹あたり日本円で、約10万円という費用をかけて移住させた。その数3000匹というのだから、莫大な金額である。

戦争中に投下された不発弾の処理、交通渋滞を起こさないように考えられた動線、歴史的都市との調和など開発の苦労談の数々は興味深かった。また、貨物基地の跡地ゆえの少ない緑を補うために建物すべてを屋上緑化する事や、水力やバイオマスによる地域発電、建物は日射の遮蔽や取得に配慮した最高性能パッシブ仕様にする事を義務付けるなど、さまざまな規制が設けられている。

ゲーテやショパンが愛した古城と学生の古都ハイデルベルグは、ドイツ人にも人気のある町だが、狭い旧市街には新たな人を受け入れる余地はない。その古都の魅力を壊すことなく、エネルギー高効率利用をテーマにした建築・都市再開発を行うという試みは、ドイツ国内でも最先端を行っているという。

市や金融機関などにより設立された開発公社が行っているこのプロジェクトは、まだ3割程度の開発状況だが、すでに数千人の人達が移り住み、雇用も創出されている。商業施設の羅列や整地やひな壇を作る従来型の住宅造成ではなく、街や暮らしを真に豊かにする開発の形とは、このようなものだと痛感させられた。

都市開発現場のエネルギー利用の仕方などを見学した。

最後に、この視察で得られた知識や教訓をこのあとも忘れることなく日々の仕事の中で、また日常の生活の中で少しでも生かすことができるように伝えていく、そしてこのような研究や開発が日本独自のものとしていつしか大成されていくことを願いつつこの視察の報告とさせていただきたい。(終わり)

セルフエナジーハウス研究会
代表 上野 勝

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