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ドイツ視察ツアー報告レポート

今回のドイツ訪問における私の目的とテーマ


セルフエナジーハウス研究会
代表 上野 勝

  • 1つはエネルギーを削減する事で経済の成長を上げる事が出来るのだろうか?
  • 1つは(社)セルフエナジーハウス研究会が推し進める家づくりに真に必要なものは何なのか?
    検証と確信を得たい。

私たちが推し進める家づくりはエネルギーの自給自足とエネルギー使用量削減、そのために建物の躯体構造をエネルギーロスの少ないものにしていくことである。

Writings&Photo:Masaru Ueno

5月10日、私たちはドイツへ旅立った!


ルフトハンザ航空、エアバスLH711便

9時45分ルフトハンザ航空のエアバスで成田からフランクフルトへと向かった。エアバスの悠々たる自信に満ちあふれた微動だにしない飛行に任せていると、今までとは違う何か大きなものを得る予感で身震いをした。

時差が7時間あるが12時間後には私たちはドイツの地にいる。きっと大きな何かを得ることを期待してエアバスの機内でいろんな事が走馬燈のように頭の中を駆け巡っていた。12時間何を考えていたのかほとんど一睡もせずにフランクフルト国際空港に着いた。


(左)フランクフルトに着いて、ほっとした表情のツアー参加者メンバー
(右)ヨーロッパは風力発電には非常に適した立地状況にあるが、これ程の数のウィンドファームを目の当たりしたのには驚いた。

日本出発の朝起きたときから計算するとすでに、15~16時間が経過している。本当なら疲れた体は睡眠を要求しているのだろうが、こちらの時間はまだ午後の3時。

このツアーは中身が非常に濃い、普通ならこのフランクフルトで一泊、というのが常識に思えるが明日からの行動を充実するために今からバスに乗ってゲッチンゲンという都市に向かうことに。眠く疲れた体もすぐに順応を始めた。その途中車窓に早くも畑や草原に立つ「風力発電」が現れた。思わず間近に見るその姿に皆シャッターをパシャッ!!

とてつもなく広いエリアに植えられた菜の花、これがどのように使われているのか後で全員が知ることになる。そうこうするうちに学園都市とノーベル賞で名高い都市、ゲッチンゲンに着いた。ホテルでチェックインした後は皆ドイツのビールとソーセージを求めて街へと繰り出した。街の中心部のカフェで食事とビールを!

とりあえず、超長旅の疲れを癒し、明日への英気をやしなう事となった。

木の繊維断熱材の国際ライセンスを持つ「ホーマテルム社」を訪問

ホーマテルム社は木質のチップを繊維化し、水を使わない「乾式製法」でボード化する事を成功させた会社だ。

6年間で売上を4倍に増やし、フランス工場も稼働させてヨーロッパ全土にじわじわと広がりつつある人気のある断熱材を送り出している。私はエネルギーロスの低い住宅、湿気の多い日本で耐久性のある住宅を作る際には、この断熱材が最適であると考えている。私の作る住宅のほぼ9割はこの断熱材を使用している。

木の構造材に木質の断熱材がマッチすることは当然だろうと思う。この断熱材は、木の持つ特性をそのまま持っていて、断熱材としての総合性能の高さはすでに実証済みであり。誰一人、この断熱材に異論を唱える人はいない。木質繊維断熱材の性能、効力については私たちの発行するSeh-Vol.01にポイントをわかりやすく書いているので是非見ていただきたい。

  1. ドイツ、ホーマテルム社・ベルガ工場。
  2. 原料をとなるトウヒのチップ。
  3. 施工性と正確性を向上させるために作られた木の断熱材専用のカッターだとどんな角度でも正確にカットできる。
  4. 説明を真剣に聞き入るメンバー。木質断熱材の特徴である熱緩和性、調湿性、遮音性、断熱性などについて実験を見ながら詳しく説明を受けた。

調湿、気密シート「インテロ」で有名なプロクリマ社を訪問

私達の研究会が開発し推奨する「ハイブリッドeハウス」に、必須アイテムとして絶対的に必要なものは数多くあるが、木質繊維断熱材とともに絶大な効果を発揮するのが、調湿気密シート「インテロ」だ。

高温多湿な地域の多い日本では、この組み合わせ無しで100年住宅などの高耐久サスティナブル住宅を作り出すことは出来ない。

今までの日本住宅が長持ちしない原因の1つをこのインテリジェントなシートが、解決してくれるといっても過言ではない。人間の肌のような仕事をしてくれる調湿機密シートは残念ながら今の日本製の製品の中にはない。

日本製が無いからといって湿度の移動の事を無視して、ポリエチレンフィルムなどの気密シートを使っていては、日本の住宅の資産価値はいつまでも25年しか続かないという状況が続くだろう。

私は湿度の状況に応じて湿度を通したり、遮断したりするこのスマートでインテリジェントな調湿気密シート「インテロ」を強くおすすめしたい。もちろんこのシートはしっかりと気密をとり省エネに貢献することは言うまでもない。湿度の高い日本でこそ力を発揮するドイツの新しい建築資材だ。


セミナーの後、プロクリマ社の外。

プロクリマ社では「インテロ」の他に「ソリテックスウォール」という防水調湿シートがある。写真は、このシートを外壁下地に使い、スノコ状に木壁を浮かして取り付ける工法がある。

最近、ドイツで人気の高いこの外壁は壁内部の湿気は排出しながら、吹き付ける雨水はしっかりとガードする。様々な気象条件にも対応する高い耐久性のある下地材といえる。

自然エネルギー利用の中で電気を利用せずに太陽熱を熱として蓄熱、その畜熱を利用しての給湯、暖房を学ぶ!

ハイブリッドeハウスでは、自然エネルギーを利用する方法の中で、給湯・暖房を電気や化石燃料を利用するのではなく、太陽熱を蓄熱し、その熱を熱源として給湯や暖房に使用することをお勧めしている。

訪れた「シュコ社」はドイツだけではなく世界トップクラスの先進環境企業だ。この太陽熱利用の分野でも、独自のすばらしい技術をもっている会社だ。

日本では太陽光発電で電気をつくり、その電気でお湯を沸かし、エアコン等の電気製品で暖房する事が主流になって行くように見受けられる。化石燃料利用でお湯を沸かし、暖房をする事はごく一般的である。

太陽の熱をより効率的に利用すれば、他の熱源を必要としないで給湯にも暖房にも充分利用できる。ポンプ用にわずかな電気を必要とするが、それには太陽光発電のパネルが2枚ほどあれば、十分まかなえる。私は、このような新しいソーラーシステムを開発したいと常々考えていたが、その構想や考え方、実現化は今回の訪独で確信出来た。

太陽をはじめとする熱エネルギーの有効活用は、国の政策の根幹に据えるべきであり、それは同時に日本の成長の原動力にもなり得ると考える。

ドイツで最初に出来たバイオエネルギー村「ユーンデ村」を訪問

今回のドイツ訪問の一つの目玉でもあるエネルギーの自給自足をドイツで最初になしとげた「ユーンデ村」を訪れた。

ユーンデ村に行くバスの車窓からどこまでも続く菜の花畑を数多く見た。

この風景は、ここだけでなくドイツの地方ではどこにでもあるのだが、私にはきれいで新鮮だった。この菜の花は、主にバイオエネルギーの資源である。ディーゼル車の多いドイツ車には菜種油が混入されているという。

私にはなかなか想像しがたかったが、今回その現実を目の当たりにした。「使えるものは使おう、少々難があっても使おう」という国の呼びかけだそうだ。

果たしてこれが日本だったら?日本人は使うのだろうか?いつまでも石油があると信じているのか?全て電気自動車になれば良いと思っているのか?

ユーンデ村は必要なエネルギー(電気と熱)を再生可能で二酸化炭素を排出しないバイオマスエネルギーで全てを供給しているドイツ最初のエネルギー村だ。

必要な資源は豊富なバイオマス(家畜の糞尿と間伐材)に加えて、空いている農地でエネルギー作物(トウモロコシ、穀物類、ひまわりなど)を栽培することによって村内で全てがまかなえている。

それらの資源をバイオガスによるコージェネ施設(電気と熱の供給)と間伐材の木質チップによる地域暖房施設により現在では、村の約200世帯が暖房用の熱と電気の供給を受けている。

ゲッチンゲン大学循環型社会研究センターと共同で取り組むこのプロジェクトによって画期的なエネルギー自給自足のモデルとして、世界各国から視察に多くの人が訪れるようになった。

こうした町づくりで地域は活性化している。エネルギーを自給自足、削減しながら成しえた1つの経済成長と言って良いだろう。

  1. レクチャーを受けている風景。
  2. ユンデ村のセミナー棟。
  3. バイオマス発電所。
  4. どこに行っても倉庫の上に太陽光発電とバイオマスの燃料チップ。

ドイツ最大のフランクフルトの住宅展示場を見学!

ドイツ国内にある、代表的な5箇所の住宅展示場の中でも、フランクフルトの展示場は規模としては1、2を誇る。

一次取得者向けのコンパクトな家から最新のパッシブハウスまで約70棟のモデルハウスが建ち並んでいる。開設当時から建て替えていない住宅も多くあり、ドイツの住宅のここ数年の変化がわかるので非常に興味深い。

欧米では町並みの景観や周辺との調和を配慮して、住宅デザインを変える事は少ないので頻繁にモデルを変える必要は無い。省エネルギー対策に対応して住宅の性能や設備が変化しているので、それに対応した新しいデザインの住宅も建てられてはいるが、多くは設備の変更程度の改装がなされているだけである。


(左)監理棟。(中)日射取得等より計算された家。(右)モダンな日本にも受けそうな家。


(左)南側に前面ガラスのパッシブハウス。(中)冬の暖房は日射取得で。(右)シンプルなデザインでコスト控えめ。


(左)やはり南からの日射取得がコンセプト。(中)日射の遮蔽が学べる家。(右)ビオトープのあるパッシブハウス。

バスの移動中にも見るところに事欠かないドイツの1コマ!

ドイツにはメルヘン街道、古城街道、ロマンチック街道、ゲーテ街道など見所が沢山ある。移動中の途中の休憩中でのスナップを少し載せてみたい。メルヘン街道の途中、ハンミュンデンでは5月の若葉と花が美しかった。

フランクフルトでの自由時間に近くのハイデルベルグを見学!

  1. 町並み風景。
  2. ハイデンベルグ城。
  3. お城より街を望む。
  4. ちょっと見方を変えて街を望む。
  5. バスに変える途中にあったカフェ。
  6. 市の中央の広場で日本人と分かると気さくに話しかけてきたグループがいた。このグループの中の2人は(結婚しているドイツ人とアメリカ人)もうすぐ東北の復興支援のため、ボランティアで日本に行くとのことだった。本当にありがたいことです。やはりいろんな経験(チェルノブイリの原発事故の恐怖)をした人たちはその痛みが分かっているようだ。

いよいよドイツを後にする前々日のフランクフルトの夜!

  1. 途中で女の娘も愛想よく挨拶してくれる。
  2. ひょうきんなエコトランスファーのバウマン氏。
  3. ヨーロッパ中央銀行、今はユーロ安で頭がいたい。
  4. 皆さん充実した体験をしたこのツアーの後半、食事をとった後はフランクフルト駅の近くのホテルまで歩いて帰った。フランクフルトの街の光景をたのしみながら・・・・。

ドイツを後にして日本へ!実り多いツアーに乾杯!

今回の訪独で得たもの、それは期待していた通り2つのテーマに確信を得られたことだった。

  • 1つはエネルギーを削減するという行為が経済成長を促すことができるのか?
  • 1つは今後推し進めていくハイブリッドeハウスの方向性は今の考え方で良いのか?

ドイツを後にする今、この2つの迷いはもう無い。

今後は、自信を持ってしっかりと発信していきたい。

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