ドイツ国内に4箇所の住宅展示場を持つバウセンター
◆第1章 最大の規模を誇るミュンヘンの展示場。
(写真)カフェやセミナールーム、資料ライブラリーを備えたバウセンターの管理棟
ミュンヘンの中心部から、延々と続く雑木林を抜けて、こじんまりとした住宅街をいくつか通り過ぎてくいと、ドイツで最大規模といわれる住宅展示場が現れる。
平らな耕地と雑木林に囲まれたこの展示場は、今から13年前の1999年に開設された。初めて家を建てる若いファミリー向けのコンパクトな家から、最新のパッシブハウスまで様々なタイプの住宅が約60棟建ち並んでいる。
駐車場に車を止めて管理棟の入り口を入ると、やさしそうな笑顔をした女性がいるカウンターがあり、ここで入場料4ユーロ(400円ほど)を払う。なんと、この展示場を見るにはお金がかかるのである。
日本の展示場はどこも無料で、運営経費や維持費はモデルハウスを出展している会社の賃料で賄っている。結局この費用は住宅の価格に反映される事になる。住宅会社にとって展示場は有効な集客場所ではあるが、膨大な費用もかかるのでそれほど容易く出展できないのである。
展示場自体の維持管理に必要な費用は来場者に一部負担してもらう事で、住宅建築を考えている人だけに来てもらう方が現実的であるという考え方は利にかなっている。さすがドイツ、実に合理的である。
管理棟内には軽食も取れるカフェとカタログや住宅雑誌が用意されたギャラリー、2階にはセミナールームがある。家や暮らしに関するセミナーが頻繁に開催され、毎週末には多くの人で賑わうという。訪れた日は、平日であいにくの雨だったが、それでも数組の来場者がいた。
管理棟を抜けて場内に入ると、サッシのカットモデルや階段のサンプルが入ったガラスケースが立っている広場あり、その左手には暖房機器(ガスから薪まで扱う)会社のショールーム棟が建っている。このショールームは、ユニークな形をしており非常に特徴的な外観をしている。
場内は、きれいに整備されていてとても見やすい。60棟あまりのモデルハウスの中には、開設当時から建て替えていない住宅も多くある。13年間も同じ住宅が建っているなど日本の展示場では到底考えられない。
ヨーロッパでは、古くからある街並みを大きく変えないように住宅の外観デザインに規定を設ける街も多く、古くからある伝統的なスタイルや流行に左右されないトラディショナルなデザインの住宅のニーズもあるので、頻繁に建て替える必要が無いのだ。
これらの住宅は変更された建築基準に合わせて、一部の設備変更程度の改装がなされているだけである。この手の住宅は取り立てて見るべき部分は少ないように感じるが、見様によっては、この住宅展示場を見るだけで、ドイツの様々な住宅のスタイルがすべて見られるわけだから、実は非常に興味深いのである。さらに、住宅に求められる機能や性能の変化も判る。
階段の見本が入っているガラスのケースの向こうに見える、円形の建物は暖房機器会社のショールーム棟。大きな窓、通気外壁など、新しい技術が取り入れられている。
きれいに整備された場内は、とても見やすい。
広大な敷地の中に68棟の住宅とガレージ、ショールーム棟などが、住宅地のようにレイアウトされている。
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◆第2章 断熱材入りのレンガブロック造では、ドイツの厳しい新基準をクリアーできない。
(写真)内部に複雑な空気層を持つ、構造材断熱ブロックはそれぞれに熱損失係数が表示されている。
最初に訪れたモデルは、赤いサッシが印象的なモダンなデザインの家。ダイニングスペースは、床から天井までの大きなガラスが入れられ、日射をコントロールするブラインドが取り付けられている。
光がいっぱいに差し込むキッチンとダイニング、リビングスペースはスキップフロアーで変化を付け、低い位置にある変形の窓が雰囲気を醸し出す、定番の暖炉が組み込まれていて、なかなか心地の良い空間である。二階にも大きな窓が取り付けられ光が差し込む、主寝室と隣接するバスルーム、そして子供部屋が配置されたごく一般的なレイアウトのコンパクトな家だが中々洒落ていて若い夫婦が気に入りそうな住宅である。
最近のヨーロッパではこのような大きなガラス面を持つ明るい住宅に人気があるという。確かに、今までの家は、窓を小さくし、鎧戸をつける事でエネルギーロスを減らす事を考えてきた。
しかし、これだと部屋は当然薄暗くなり、曇り空の多い冬では昼でも明かりを点ける事が多くなり、結局エネルギーを余計に使う事になる。しかし、ここ数年で窓の断熱性能が数段と向上したため、光がいっぱいに差し込むように大きな窓を取り付けても、エネルギーは逃げない。
この住宅は対象客が若年家族なのでローコスト化が図られていて、ヨーロッパの低価格住宅の定番である中空のレンガブロックが構造材となっている。このレンガを組み上げ、棟木と垂木は集成材を使う、内部は壁と石膏ボードの間に断熱材を入れて塗り壁で仕上げる。
厚さ30センチはあろうかというこのレンガは、中に複雑な空気層を作ることで躯体の断熱性を上げている。さらに断熱性を高める為にガラス繊維を入れたレンガもあり、展示されていたサンプルにはそれぞれに熱損失係数が提示されている。
ヨーロッパでは、一般的に最も多く取り入れられている工法だが、ますます厳しくなる省エネ基準では、この構造材では、今後対応できなくなるだろうとモデルハウスにいたスタッフが語っていた。
この会社では、生き残るために木造にする事を検討していると言う。
大きな窓から光が差し込む明るく開放的なダイニング、スキップフロアーと変形窓など、なかなか洒落たインテリアの住宅は、人気のモデルだという。
赤とグレーの色使いがおしゃれな外観、赤いフレームの窓や扉は開閉できる
太陽熱パネルと太陽光発電を載せた住宅は、ティンバーフレームで壁の仕上がりは一見日本の住宅のようにも見える。
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◆第3章 ヨーロッパの最新住宅は、木造在来住宅
最新の省エネルギー住宅基準に対応した新しいデザインの住宅も数棟建てられている。
中でも興味深いのは、日本の木造在来工法を進化させたような太い柱と梁を使った木構造住宅。柱と梁は、露出しない金物で結合され、厚さ10センチ以上もある集成パネルを2階のフロアーに使い、内部に木質繊維の断熱材や木片を充填した優に40センチ以上の厚さがある壁、さらに外側には高密度の木質繊維断熱材を貼るというダブル断熱構造になっている。
外壁は、断熱材を直に塗って仕上げ、柱を現して真壁にしている。一見すると日本の伝統的な住宅のようにも見えるし、柱を黒く塗った神殿を彷彿とさせるようなモデルもある。室内も木がふんだんに使われていて、とても心地が良い。木造の住宅は価格的には高価だがヨーロッパでも人気が高く、日本の美をモチーフにしたデザインは、インテリ層には特に人気があると言う。
これらの住宅で多く使われている自然素材でできた断熱材は、ガラス繊維やロックウール等の鉱物系、ウレタン等の化学系に比べて総合的な性能が高いので毎年高い伸び率を示している。中でも間伐材などから作られる木質繊維断熱材は、毎年4倍という勢いで生産が増加しているようだ。
やはり、木の家には木の断熱材が合っている。そればかりか、レンガ造の建物の外部に高密度の木質繊維断熱材を貼り、左官で仕上げるという使われ方もしている。
太陽熱パネルと太陽光発電を載せた住宅は、ティンバーフレームで壁の仕上がりは一見日本の住宅のようにも見える。
木質の高密度断熱材を貼り付けたIビーム風のスタッドの間に木質繊維断熱材を充填し、高密度の木質繊維断熱材を外に貼ったダブル断熱壁の厚さは30センチ程。
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◆第4章 窓の性能が変えた住宅デザイン。
(写真)ティンバーフレームと大きな窓、ショールームのような建物は、ダブル断熱の壁よりも断熱性の高い窓が開発された結果生まれた。
建物の一面がすべてガラスであるというのも、特徴である。
この様な住宅が登場するようになったのは窓の性能が飛躍的に良くなった結果の産物で、冬の長いヨーロッパ北部の人には、明るい室内と太陽の熱を取り入れて活用するというパッシブスタイルは、いわば憧れなのであろう。
ドイツの最高基準の性能を持つ『パッシブハウス』に使われるようなサッシは、25ミリの隙間を持つ3層ガラスにアルゴンガスを入れている。サッシ枠自体も、木製や樹脂などの熱伝導率の低い素材を使い、中を中空にしたり断熱材を注入したりしてより一段と断熱性能を高めた壁よりも熱損失が少ない窓が登場している。最近では、グラスファイバー製のスリムな枠や4層ガラスまで登場している。
ここまで窓の性能が高くなれば、太陽の光と熱をふんだんに取り入れて部屋を暖め、その熱を取り逃がさないという構造・デザインにすれば、光熱費はかなり削減出来る。冬の長いドイツでは、燃料に薪を使っていても暖房費は大きな負担、その暖房を太陽の熱で賄えれば一番安上がりである。何より太陽熱は、タダで無限にある。
その太陽熱を室内に取り入れる、いわゆるパッシブスタイルが可能になったのは、窓の性能が高くなったから、つまりは、窓が家のデザインを変えたのである。
この展示場創設時に建てられたモデルハウスは、ドイツではごく一般的に建てられている一時取得者向け住宅。
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◆第5章 壁が移動する住宅、発電する壁を持つ住宅 etc
(写真)赤と黒のコントラストが目を引く壁に太陽光発電を取り付けた家。
他にも、興味深い住宅は沢山ある。
キッチンの食器戸棚、リビングの壁、ダイニングの壁が家の端から端まで移動して、様々なレイアウトに変化する家。間仕切り壁が移動して使用状況に応じて変化する事が出来たら、設計時にレイアウトで頭を悩まさなくて良いのではと考える。
日本にも壁を移動させてレイアウトを変えられる住宅はあるが、食器戸棚まで移動するのはあまり見た事が無い。扉も間仕切りも無いオープンバスルームの家、ツリーハウスのような仕掛けがしてある子供部屋の家など、アイデアの詰まった楽しい家。
壁に太陽光発電パネルを貼った家も興味深い。赤と黒のコントラストでモダンな外観の家で、太陽光発電を屋根から壁まで付けてあり、発電した電気を売電すると、電気代はプラスになるというプラスハウス。
いわば発電所みたいな家である。
発電状態をチェックする3畳ほどの機械室には、個々のパネルの発電量をチェックするメーターや総発電量と使用電気量がすぐにわかるメーター、緊急用のブレーカーなどが壁一面に並んでいる。さらに、吸気と排気の熱交換をする大型の熱交換換気システム、太陽熱を利用した蓄熱タンクとそれらの制御装置がずらりと並び、ビルのコントロールルームといった感じで、個人の家のものとは思えない設備である。
ドイツと日本では気候が大きく違うが、住宅に関する考え方、省エネに関する考え方の基本にさほど大きな違いは無い。この展示場を見て、我々にはまだまだ学ぶ事が多くあると感じた。
訪問した日は平日であいにくの雨、スタッフが不在で内部を見られないモデルも多かったのが残念である。改めて、ゆっくりと取材したいと考えている。
研究会では、この展示場や建築現場などを視察するツアーを企画している。興味がある方は参加してみたら如何だろうか?
天井までの壁一面だけではなく、食器戸棚まで移動する。
ドアも仕切りも無いバスルーム。
階段の収納や塗り分けられた壁とツリーハウスのようなベットなど、楽しい工夫がなされた子供部屋。
2012年05月08日【6】