再生可能エネルギー、日本の常識は世界と「真逆」
再生可能エネルギー、日本の常識は世界と「真逆」
ドイツや米国の太陽光や風力が安い理由
山根 小雪さん記事より
世界では再生可能エネルギーは「安い」というのが常識だ。一方の日本での認識は、その真逆を行く。実際のコストにも大きな乖離が存在する。なぜ、これほどまでに再エネを取り巻く状況に差があるのだろうか。
「『なぜ日本は安価な再生可能エネルギーを活用せず、燃料費が高い火力発電ばかりを使うの?』。欧州へ行くと必ずこう聞かれます」
国内外で再生可能エネルギーに関する制度・政策の調査を手がける、トーマツ・エンタープライズリスクサービスの水野瑛己マネジャーは苦笑する。
この指摘の背景には、「太陽光発電の発電コストは、電力の小売料金よりも安く、風力発電の発電コストは火力発電並み」というのが欧米の常識になったことがある。
翻って日本。東京電力・福島第1原子力発電所事故に始まる原発停止による電力不足は、そのすべてを火力発電で賄ってきた。
火力発電は原価の約6割を天然ガスや石炭、石油といった燃料費が占める。資源に乏しい日本は火力燃料のほぼすべてを輸入に頼っている。だからこそ、日本向けの燃料価格は「ジャパンプレミアム」と呼ばれ、電力料金高騰の主要因となってきた。
2012年7月に再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度をようやく導入したものの、あくまで火力発電の方が安価で、再エネは高いというのが日本の常識だ。
実際、日本でのコスト計算によると、再エネの方が火力よりも相当、割高だ。
政府が2011年に公表した火力の発電コストは、石炭火力で1キロワット時当たり9.5円、天然ガス火力は同10.7円。一方、固定価格買い取り制度における2014年度の買い取り価格は、太陽光発電が1キロワット時当たり32円(税別)。風力発電は同22円だ。買い取り価格は、発電コストに適正利潤を上乗せしているとはいえ、価格差は2~3倍もある。
ところが、米国エネルギー省によると、2013年末時点の米国における太陽光発電のコスト(発電事業者と購入者の契約価格)は1キロワット時当たり平均11セント(約11円)。風力に至っては、2012年の平均でわずか同3.83セント(約3.83円)だという。
日本と世界で再エネ価格が「雲泥の差」になる理由
日本と欧米の再エネ価格は、まさしく雲泥の差。なぜこれほどまでに、差があるのだろうか。
ある専門家はこう指摘する。「国内の太陽電池メーカーは、価格が急激に下落することを防ぐために、談合とも言えるような値付けをしている」。適正な競争が働けば、本来下がるはずの価格にまで下がっていないという見立てだ。
海外メーカーの安価な太陽電池は、「国内販売するために必要な認証などのハードルが高い」という声も漏れてくる。加えて、「電力網との接続工事などの料金が高止まりしていることが、コストを底上げしている」(電力業界関係者)。
コスト低減のスピードに価格見直しが追いつかない
もう1つの理由は、制度設計に緻密さと柔軟性が足りないことだ。
固定価格買い取り制度の買い取り価格は、太陽電池などのコスト低減効果を織り込んで見直すことになっている。ところが、現在の1年に1回の改正では、コスト低減のスピードに見直しが追いつかない。その結果、制度設計の想定以上に発電事業者の収益性が高くなるという状況が続いている。
さらに、トーマツの水野マネジャーは、「制度設計は、数値データに基づいて精緻に行うべきなのに、あいまいな決め方をしているのが日本の問題点だ」と断じる。
ドイツの場合、膨大なデータを基に固定価格買い取り制度を作り込んでいる。太陽電池などの設備のコスト算定はもちろんのこと、環境影響などのデータも仔細に収集して制度に反映させる。しかも、買い取り価格は毎月見直し、導入状況によって上限値を設けるなどの工夫も加えてきた。運用には苦労しつつも、試行錯誤を重ねて改善を進めている。
日本は制度設計を見直すべき時期を迎えている
固定価格買い取り制度が、再エネの導入促進に最も効果のある政策手法であることは、先行する各国の状況を見れば明白だ。導入が進めば、コストも下がる。その結果が、「火力発電よりも再エネの方が安い」という世界の常識を生んだ。
東日本大震災前、日本の再エネ導入比率は大規模水力を除くと1%強しかなかった。再エネに関しては、後進国と言わざるを得ない状況だった。その日本も、固定価格買い取り制度の導入によって、ようやく動き出した。
固定価格買い取り制度による導入効果は凄まじいものがあり、2012年7月の制度開始から2014年3月までの2年弱で6864万キロワットもの設備が認定を受けた。設備利用率が異なるので一概に比較はできないが、設備の出力だけを比べれば原発60基分に相当する量だ。
制度施行から3年を経て、競争促進策が必要に
制度の施行から3年間は「加速度期間」と銘打って、買い取り価格などの条件にはプレミアムをつけてきた。長らく微動だにしなかった日本市場を動かすためには、カンフル剤が必要だったと考えれば、これまでの制度設計が間違いだったとは思わない。
ただ、今年で制度開始から3年目を迎える。見回してみれば、発電コストでは風力などに劣る太陽光発電ばかりが大量に導入されている。日本にもコストを引き下げるための精緻な制度設計と、競争を促すための刺激が必要な時期が来たと感じる。
ドイツは8月1日、制度改正を実施する。今回の改正では、買い取り価格の引き下げや過剰になっていた補助の廃止、コスト負担方法の見直しなどを行う。最も大きな変化は、再エネへの競争導入だろう。
再エネのコストは、かつてと比べて大幅に低減し、補助政策なしでもほかの電源と戦えるところまで育ってきたという認識なのだろう。当面、買い取り価格の設定は続けるものの、再エネによる電力の売買については、発電事業者が自ら売り先を探し、取引することが義務付けられる。これまでは発電すれば自動的に買い取ってもらえたことと比べると、大きな変化だ。
「今回の制度改正には、そろそろ再エネを独り立ちさせようというドイツ政府の狙いが明確に示されている」とトーマツの水野マネジャーは分析する。競争の導入は、電力会社をはじめとするプレーヤーへの刺激になり、ひいては電気料金の引き下げといった形で消費者へ恩恵を与える。
再エネ導入には国家の意思が必要だ
ドイツの再エネ導入目標は壮大だ。2025年までには再エネを40~45%、2035年には55~60%に引き上げる。電気料金の上昇や電力網への対策の必要性が叫ばれるなど、課題はある。それでも、導入促進策の手綱はまったくと言っていいほどゆるめていない。
再エネの導入に伴うコスト負担方法にも、ドイツ政府の意思が見える。エネルギー多消費型企業への負担は大幅に減免し、国民が負担しているのだ。その結果、ドイツ経済は成長し、国内の雇用は維持される。
ドイツでは、原子力発電は発電コストが高いという認識が、広く浸透している。加えて、ロシアの天然ガスへの依存度を低下させたいという思いがあり、行き着いた答えが再エネだったというわけだ。
エネルギー安全保障と経済政策を両立させるドイツを見ていると、再エネ導入には国家としての意思が必要なのだと考えさせられる。
日本も固定価格買い取り制度を始めとする制度をうまく運用することができれば、資源不足を補い、電気料金を引き下げ、電力市場に競争を起こすことができる。不可能とも思える方程式を解くことすらできる可能性を秘めている。
「米国の電力会社は、電力自由化よりも、再エネを中心とした分散型電源の導入にビジネスモデルの変更を迫られたと言っている。日本でも、再エネ導入の推進が電力市場に適正な競争を引き起こす可能性は十分にある」とエネルギー戦略研究所の山家公雄所長は指摘する。
再エネ推進は諸刃の刃だ。今の日本のやり方を踏襲するだけでは、電気料金の高騰を後押しするだけかもしれない。再エネ導入の真価を発揮させるためには、日本はまだ努力が足りない。
2014年09月17日【23】
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