「パッシブハウス」が市場に浸透:ドイツに見る省エネ住宅マーケティング
以下の記事は新建ハウジング2014年5月10日号に掲載された内容をそのまま転写したものです。私たちセルフエナジーハウス研究会が前回の訪独視察団で視察した時の内容の一部をもっと詳しくお伝えできる内容になっています。
4月21日~28日まで開催された「ドイツパッシブハウス世界大会視察研修」(事務局:東農地域木材流通センター)に同行内容を連載で報告する。初回は、日本でも注目されている超高断熱住宅「パッシブハウス」について。既に母国・ドイツでは標準的になり始めている。大手、地場工務店ともことさら高いレベルという意識ではなく、省エネ性能はむしろ前提条件に。競争は素材へのこだわりやスマートハウスとの融合など、プラスαの強みに移っている。
展示場パンフで容易に性能比較、プラスエナジーハウス提案も急増
ドイツの新築住宅では、省エネ性能は一定のゴールに達しているようだ。住宅販売の現場では次の段階の競争へと移行しつつある。ドイツの国内で広く事業展開している住宅展示場「FertighausWelt」のケルン店(所在地はケルン近郊のフレッヘン)には24の住宅会社が出展。ヨーロッパ最大級の住宅会社から50棟規模の工務店まで、いろいろなタイプのモデルハウスを見ることができる。日本の住宅展示場と異なるのは、住宅の省エネ性能に関する情報の取り扱いだ。展示場の入り口で渡されるパンフレットには特別に枠
が設けてあり、省エネ性能を項目ごとに比較できるようになっている。どのような基準を満たしているのか、外壁の断熱性能(U値)、暖房方式などが統一のフォーマットで記載されている。その資料によると、モデルハウスという前提はあるが、24社中19社の住宅の外壁熱貫流率U値がパッシブハウス基準の0.15W/㎡K以下。一番高性能な住宅は0.09W/㎡Kで、クリアしていない3つの住宅も0.2W㎡K未満(2社は詳細表記なし)とかなりハイレベルとなっている。半分以上の住宅がKfW(ドイツの政府系金融機関)の有利な融資を受けられる基準を満たし、うち5社はもっとも高い区分を満たしている。また3分の1以上が、エネルギー収支がプラスになる「プラスエナジーハウス」となっている。もはや省エネ性能だけでは、新築市場において大きなアドバンテージにならないのが現状だ。
求められるプラスαの強み 法律により先に市場が動
太陽光は自家消費へ
「FertighausWelt」ケルン店の出展会社のひとつKAMPA社は、パッシブハウス相当の性能を標準として展開。これに加え、昨年から蓄電池の提供を始めた。さらに今年5月からは、この蓄電池をソーラーパネルとあわせて標準仕様としていくという。背景には、ドイツエネルギー政策の変化がある。ここ数年で太陽光発電に対する支援策が大きく変わり、電気の売却価格が買い入れ価格よりも安く設定されている。発電した電力の一定割合を自家消費すると売却価格が高くなるという仕組みとの相乗効果もあって、発電した電力の自家消費を増やす方向へと転換が図られている。KAMPA社はその政策の流れの乗り、蓄電池に発電した電力を貯めて光熱費を抑えることを強みとしてうたっている。
デザインや素材強調
これに対しヨーロッパ最大級の住宅会社であるELK社は、イニシャルコストメリットを強調する。同社もKAMPA社と同等のパッシブハウス級のモデルハウスを展示。ブラインドの自動開閉システムなど先進的な仕掛けも取り入れ、販売価格は㎡あたり1500ユーロ以下という。KAMPA社の住宅の価格が㎡あたり1700~2200ユーロなので、それよりも1割以上安い。現在、同社で一番人気があるのはキューブ型デザインのパッシブハウスレベルの住宅だが、購入者は「モダンなデザインで選んでいる」(展示場営業担当)という。ドイツでは省エネ基準の引き上げが進むとともに、省エネ性能による競争は一定の節目を迎えた間がある。木質感を強みとするStommel Haus社のモデルハウスは外壁平均U値0.19W/㎡Kと断熱性能はほかより高くないものの、断熱材に木質繊維を使うなど素材にこだわったつくり込みを徹底。暖房機器のも薪ストーブを取り入れるなど、一貫したマーケティングを行っている。
関心は非住宅、改修へ
ドイツのアーヘンで現地時間の4月25・26日に開かれたパッシブハウス世界大会では、非住宅分野へのパッシブハウス基準の展開に力を入れるべきという意見や、既存建物の改修を促進するべきという報告が中心的な話題となった。住宅の新築については、技術的に一定の達成感があるという印象だ。パッシブハウス研究所のブォルフガング・ファイスト博士は、「市場のスピードが法律のスピードを越えた」と指摘。パッシブハウス研究所が示した目標を目指して建材メーカーが製品の性能を飛躍的の高めた結果、高性能建材の低廉化が進み、それが省エネ化を推し進めているという。日本では省エネ基準の義務化に向けた論議がようやく本格化したところだが、こうした世界的な潮流のなか、日本でも法律制より早く市場が動く可能性がありそうだ。
2014年06月13日【20】
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