なぜ、エネルギー自立住宅が必要なのか?
第1章 大きな差がある意識と行動
私達は、家庭で毎日沢山のエネルギー資源を消費しています。スイッチを入れればいつでも明かりがつき、テレビや映画を家で楽しむ事が出来、エアコンは常に部屋の温度を一定にしてくれて、熱帯夜でも、吹雪の夜でも快適に睡眠する事ができます。蛇口をひねれば、すぐにお湯が使え、お風呂にはいつでも入れます。
電気やガスの調理機器は、おいしい料理を手早く簡単に作る手助けをしてくれます。電気・ガス・水などのいわゆる生活インフラは、世界でも最高の水準で整備され、ある事が当然になり、なんの不安もない生活を送って来ました。
しかし、この生活を維持する為に、水力や火力、原子力で多量の電気を作り、石油を消費して、大気・水質汚染を生み、環境汚染の深刻さや地球の温暖化が問題視されてきました。これは、日本に限った事ではなく、すべての国に共通した問題です。
ドイツやデンマークなどの環境先進国と言われる国では、市民レベルの環境保護運動の動きが起き上がり、環境保護全体にかかわる法規制の強化をいち早く打ち出しました。日本では陸続きではないという地理的状況から、“グローバルに考え、地域的に対応する”という考え方が欧州のようには定着せず、長期的な視野で環境保護を捕らえて来ませんでした。
しかし、2度のオイルショックとバブル崩壊後の長引く不況は、日本人の環境意識を高め、生活の価値観を変えました。市民の環境意識に関するある研究によれば、高度成長期の1971年には「環境問題を深刻に受け止めていない」人が50.8%もいましたが、1998年には「地球温暖化防止のために何らかの取り組みをしたい」と答えた人は74.1%に達し、さらに「高くてもエコ製品を購入する」と答えた人は1991年よりも増えているという結果が現れました。
この研究では、日本人とドイツ人の環境意識とその望む行動の比較をしていますが、両者の間には大きな差は無いようだが、実際の行動という視点では大きな開きが見られるとの結果が示されています。特に日本の若年層の環境危機意識は、環境汚染の情報源がセンセーショナルな報道に傾倒しがちなテレビや新聞に集中しているために77%と極めて高いのですが、行政が実行すべきだとしてすべてを任せ何も行動していないのが現状だと指摘されています。
これは、環境危機意識は汚染が物理的に遠くになればなるほど、また時間の経過と共に低下する傾向があり、熱しやすくさめやすい、そしていやなことは早めに忘れて次の明るい未来を考える日本人の性格に由来していると締めくくられています。それに対して、環境危機意識が40%と低くても、ドイツの若年層の50%以上は積極的な行動をしていているとされています。
日本は、世界最高水準の環境技術を誇る国と自負し、京都議定書を採択した国際会議の議長国であり、温室効果ガス25%削減目標を明言して世界から絶賛されました。しかし、太陽光発電やエコ給湯などの普及促進政策も経済波及効果を優先する要素が強く、抜本的な対策とは言えず、その後もCO2排出量は年々増加し続け家庭部門の排出量は世界平均の倍とも言われています。
CO2の排出量は、= エネルギー消費量なので、省エネどころか増加の一途を歩んでいるのです。ドイツでは、建物自体のエネルギー性能を厳しい基準にする法制化など様々な政策を導入し、京都議定書で提示された目標を2008年には達成しています。
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第2章 枯渇するエネルギー資源
私達は、このような状況の下エネルギーや省エネに対する考え方を根底から覆すような出来事に遭遇しました。私達は、万が一の災害等でも、国や行政、供給会社が責任を持って生活に必要なエネルギーを供給する事を守ってくれると信じていました。
先の環境意識の時に触れたように“意識は極めて高い反面、行政が実行すべきだとしてすべてを任せ何も行動していないのが現状”だったのです。しかし、実際はそうは行きませんでした。
堅牢で安全だと言われた原発が被災して発電する事が出来なくなっただけではなく、今なお放射能汚染の脅威にさらされています。被災地以外でもガソリンや灯油を買うのに長蛇の列ができ、節電を余儀なくされ街の明かりが消えました。
想定外という言葉で多くの問題点は片付けられていますが、災害はいつ、何処で、どの様に、そして、どれだけの被害に襲われるのか想定する事自体が不可能なのです。日々の生活に当然のように使っていたエネルギー資源が、ある日突然失われたらどうなるのか、その大切さを改めて知らされました。
私達が今まで、簡単で便利だと使い続けてきた石炭や石油、天然ガスなどのエネルギーのほとんどは、作り出される時間よりも使う時間が早く、そのまま使い続ければ枯渇してしまうエネルギーです。Co2を出さない、クリーンなエネルギーだと言われた原子力発電の事故で放出された放射能汚染は、想像を超える以上に深刻です。
世界では、戦争の再来を伺わせるような原油や天然ガスなどのエネルギー源の壮烈な取り合いが始まっています。これらのエネルギーに依存している私達の生活は、ますます不自由になっていくでしょう。
いずれ枯渇すると言われるエネルギーに代わる新たなエネルギー源として期待されているのが自然エネルギーです。自然エネルギーは従来のエネルギーとは違い、作る場所と使う場所が近い事が最も効率の良い使い方であるという性格を持っています。
また、大規模な施設や機器を必要としないので、一般の住宅にも設置が可能です。太陽光発電などの発電機器に関しては高度に技術開発が進んだ現在では、個々の家庭で使うには十分過ぎるほどの発電量があり、近隣と融通しあう地域密着型が最も効率的であるとも言われています。
地域の人達と共同で設置して活用すれば、地域との関わりが深くなり結果としてコミュニティが活性化します。
すでに世界のあちらこちらで取り入れられ、多くの成功事例が生まれています。
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第3章 エネルギー自立を目指すライフスタイル
この震災で多くの人達は、『自分や家族の命や暮らしは、自分達で守るようにしなければならない』という事を感じています。そして、「家庭菜園などで農薬を使わない安心できる食材を自分達で作るように、エネルギーも自分達で作れないのか? 」「電気やガス・水道などのインフラにまったく頼らずに、エネルギーを完全に自給自足する住宅を建てられるのか? 」そう考える人もいます。
果たして、可能なのでしょうか?
もちろん不可能ではありませんが、食料の自給自足を行う事と同じように、考え方やライフスタイルから変えなければなりません。
しかし、すべてのエネルギーを自分たちの手で作り出す事は現実的ではありません。実際は、『自分達でできる事は、極力自分達でやる』という事なのです。今後は日々使うエネルギーも出来る限り自分達で作り出して、大切に使うという考え方の人も増えていくでしょう。
私達は、快適や便利さを求めるあまり、化石燃料や原子力に依存すぎていた暮らしをして来ました。これからは、その生活スタイルを見直して、「身近にある安全でクリーンなエネルギーを取り入れて、自分で使うエネルギーは自分で作る暮らしを目指していく。」事が必要です。
自身が必要なエネルギー量を把握し、身の回りにあるエネルギーを工夫して取り入れ、エネルギーを無駄の無いように使う暮らし方をしなければなりません。その為には、生活の中心となる『家』を、『エネルギーを自給自足して、快適で健康に暮せる家』にする事が必要なのです。
このような家で暮らすことは、家族一人一人のエネルギーに対する意識を高め、将来を担う子供達にエネルギーの大切さや使い方を教える事だけではなく、結果として環境破壊や温暖化を防ぎ、子孫に美しい地球と自然環境を受け継いで行く事でもあります。
2012年05月10日【11】